まいにち初体験
2022/04/12
1月中旬から3月末まで、三宅航太郎にデザイン講座を開いてもらった。以前から私は三宅くんのデザインが好きで、グラフィックデザインの勉強をしたいとかねてから相談していたのだった。
太っ腹で面白がるのが上手な三宅くんは、忙しい年度末にも関わらず快諾してくれた。Yスタッフのようこも誘って、三宅先生と生徒二人の贅沢なプライベートスクールであった。時々たみでデザインの仕事もしているかとーちゃんも参加してくれた。
隔週の月曜夜9時過ぎに、課題をつくってきて講評をする。三宅くんがスクールの名前がほしいと言うので、『月9船長(げっくせんちょう)』と私が名づけた。
さて、毎回出される2種類の課題のうち、メインの課題はポスターのデザインなどフォトショップやイラストレーターも実践的な課題で、もう一つの課題は、禅問答のような発想の転換を必要とするへんてこな課題が出た。
「自分のからだの一部を使って自分の名前を書きなさい(手以外)」
「公共の場所にお金を隠して、3日以上開けて取りに行きなさい」
「セルフタイマーで自分がうつった面白い写真を3秒と10秒で撮りなさい」
「影を狩猟採集しなさい」等々。
中でも盛り上がったのが「2週間の中で初体験を何かをしなさい。何個でも、体験の度合いも、発表の仕方も自由」というものだった。SNS上で、お互いの初体験を写真とテキストで毎日シェアした。課題を出した三宅くん自身も毎日やっていた。
この課題によって、私は一度も投票したことのない政党の政治家とツーショットを撮ったり、柳家の復刻の土笛の音を聞いたり、魚のうろこのフライを食べたり、『新婚さんいらっしゃい』をおかめのお面をつけて鑑賞したり、階段を後ろ向きであがったり、ミシェル・フーコーと柳宗悦の肉声を初めて聴いたりした。
それぞれがやったことを聞いたり、写真で見るのがまた面白い。普段しないような質問を両親や子どもに聞いてみたり、体を洗う順番をいつもと逆にしたり、味噌汁をワイングラスに入れて飲んだり。
年をとっても初めてする/できることというのは、こんなにもあるんだなーと思った。はじめての体験を探す目で、日常の風景を眺めた二週間だった。
日々の生活に退屈したら、試しに一週間でもいいから毎日やってみるといいと思う。思わぬ発見とひらめきと楽しさで、目の前の日常が違った色を見せてくれるかもしれない。
(さち)