めがね
2017/09/26
普段運転する時にしかめがねをかけない。なぜかというと、おちゃらけたキャラなのに真面目に見られてしまうような気がして恥ずかしいからだ。今日は朝から気分が良かったので、伸びた髪をふたつに分けて三つ編みにしてみた。めがねをかけると、ちびまるこちゃんに出てくるたまちゃんにそっくりになった。ふたつの三つ編みを揺らしながら、家からたみまでの道を急ぎ足で歩く。日曜日のまちの朝はゆっくり動き出す。車がビュンビュン通ってなかなか渡れない横断歩道も、今日はすんなり向こう側へ行けた。
たみに着いてカフェの看板を出し、全部のテーブルをふきんで拭く。花瓶のお花の水を換えてやると、彼らからありがとうと感謝された気分になる。めがねをかけていると、普段見えていなかった色んなものがよく見える。本棚にある料理本のタイトルも、お客さんが道の駅で買ってきた大粒の干しぶどうも、カフェの窓から見える池の水面も・・。ふと、今まで逃していたいろんなものたちが、静物画のように見えてくる。秋の柔らかな光が窓をすり抜け、奥行きのある立体的な物体がいくつもあることに気付く。ここで動いたり息をしたりしてるものはすべて、絵画からはみ出てきてしまったその延長線上の世界なのだ。
美しいものや季節は移り変わってゆく。夕方たみの店番を終え、歩いて1分のところにある銭湯へ行く。初めてめがねをかけて入ってみた。湯気で曇って何も見えない。開け放たれた窓から金木犀の香りが流れてくるのを感じて、鼻をスンスンしながら湯船に浸かった。
(にん)