移動する理由
2019/10/07
久しぶりに少し遠くへ、鳥取から離れて、遠くへ行ってみた。
人ごみの中を歩いてみる。人の顔を覗く。
今まで都会にいたときはこんなふうに顔をちゃんと見たことなかったな。
ちょっと昔のフォントに目が行く。ここにこんな銭湯あったっけ。
自分が街のどんなところを見るのか、何を大事にしているのか、それが変わっていることに気付く。
会いたかった人に会えなかった。どうしても会いたい人に会えた。
今住んでいるこことは違う場所。昔いたわたしとはちょっと違うわたしで。
何でもないことだけど、川沿いを散歩して、古い映画館で映画を見て。
もっと他に行くべきところがあるんじゃない?って言われそうだけど。わたしにとって大事なことはそうじゃない。
夜行バスに乗って、ここに帰ってきた。朝日の中、彼岸花の赤が緑の中に映えている。
無人駅で降りていつもの風景。深呼吸をする。ああ、気持ちがいい。
扉をころころと開けると、いつもの顔が「おかえり」と言ってくれる。
わたしは嬉しい顔で「ただいま」と言う。
ほんの少しだけ変わっているここの風景。それを噛みしめながらカフェに立つ。流れていく時間と空間に身をゆだねて。
わたしはここの暮らしがとても好きなんだと、忘れていたことを実感する。
カウンターに並んでごはんを食べるふたりの後ろ姿が愛おしいなと思って、シャッターを切る。
ひと月ぶりに来てくれた人とゆっくりお話しする。笑う。
わたしの大事なことを確認する。
違う空間に身を置くこと、それだけで、ひとは変われる、と、そう思った。
(あらり)